富山県美術館で開催中の「石岡瑛子 I デザイン」展に行ってきました。
正直なところ、事前の期待はそれほど高くはありませんでした。どこかで「ポスターは所詮、商業デザイン」という先入観があったからかもしれません。
展示されていた作品の多くは、景気の良かった昭和末期のものが中心で、中でもPARCOのポスターは特に印象的でした。東京で暮らしていた頃、電車の中吊り広告などで石岡さんの作品をよく目にしていましたが、当時は「外国人モデルや異国の風景が、なぜファッションと結びつくのか?」とピンとこない部分もありました。
それでも、「なんとなくかっこいい」という直感的な魅力は、若い自分にも伝わっていました。
資生堂時代のポスター、PARCOでの仕事、ブックデザイン、そしてマイルス・デイヴィスのレコードジャケットなど、展示されている作品群は確かに見応えがあります。ただ、なぜか「グッとくるもの」がなく、作品の横に添えられた名言も、少し空回りしているように感じられました。少し消化不良のまま、美術館を後にしたのです。
美術館を訪れる前に予約していた2冊の本が届いていたので、展示を見たあとに読みました。
この2冊を読んで、ようやく石岡瑛子さんの本当の偉大さが腑に落ちました。
グラフィックデザインだけでなく、衣装、舞台芸術、映画美術まで手がける彼女は、まさに「真のクリエイター」です。商業デザインが、ある意味「まとめられたデザイン」になってしまうのに対して、衣装や舞台美術は想像力をかき立てるものであり、石岡さんの表現には圧倒的な自由と熱量があります。
また、文章も非常に巧みで、制作の過程やクライアントとのやり取り、時間の流れまでもリアルに描写されており、その情熱と覚悟にただただ圧倒されました。
EIKO 血が、汗が、涙がデザインできるか 336P
私デザイン 石岡瑛子 476P
と見ごたえ、読み応えがあります。熱量を感じますね。
『私デザイン 石岡瑛子』のあとがきは、石岡さんの創造の原動力に触れることができる貴重な部分です。
何を考え、日々どんな準備をして創造しているのか——。彼女は、まるで男以上に真っ直ぐな性格で、思っていることを包み隠さず語ってくれます。読んでいるうちにこちらも元気をもらい、自然と前向きな気持ちになれるのです。
三島由紀夫の生涯と文学作品を題材にした映画『MISHIMA』(1985年)は、カンヌ国際映画祭で芸術貢献賞を受賞するも、日本では親族の反対などから公開されていません。
この映画で石岡瑛子さんは舞台美術を担当しています。その完成度はまさに圧巻。監督の想いを形にしたと語っていますが、それ以上に、創造性と美しさが突き抜けていて、観る者を圧倒します。
ネットで偶然観たこの映画を何度も繰り返し観て、石岡さんの制作秘話を読み、三島由紀夫の『憂国』を再読するうちに、不思議と三島由紀夫の世界が自分の中によみがえってくるような感覚を覚えました。
展覧会を観ただけではわからなかった石岡瑛子さんの本質が、書籍と映画を通してようやく見えてきました。
グラフィックから衣装、舞台美術、そして映画まで――ジャンルを超えて活躍し続けた石岡瑛子。その情熱と挑戦に、改めて心を打たれました。
デザインという枠にとらわれず、「創造すること」の本質に触れたい方には、展示だけでなく、彼女の言葉にこそぜひ触れてほしいと思います。